ビートルズと映画の世界
音楽と映像のクロスロード

プロローグ
1965年11月23日、イギリスのトゥイッケナム・スタジオにて、ジョー・マグラスという映像監督がザ・ビートルズのプロモーション・ビデオを撮影しました。5曲分(当日撮影されたのは「I feel fine」、「Ticket to ride」、「Help」、「Day Tripper」、「We Can Work It Out」の5曲。)のプロモーション・ビデオを撮影したこの日が、世界で初めてプロモーション・ビデオが撮影された日と言われています。
また、彼らは、『A Hard Day’s Night』(1964年)、『Help!』(1965年)、『Yellow Submarine』(1968年)、テレビ映画『Magical Mystery Tour』(1967年)、ドキュメンタリー映画『Let It Be』(1969年)の計5本の映画作品も制作しました。
このように、ビートルズは、単なるポップミュージックの枠を超え、様々な芸術形式との交差点となっています。
この特集では、ビートルズの音楽が、筆者が音楽鑑賞と同等の個人的趣味でもある “映画作品” とどのように共鳴し合っているかを完全主観で探ります。彼らの楽曲と比較される映画作品を通して、ビートルズの音楽が持つ多層的な美しさを解き明かしていきます。
#ジョン・レノン
_奇人・変人・天才、その全て。

ジョン・レノンの楽曲は、「She Loves You」や「I feel fine」などの初期の作品、レノン=マッカートニーによる「All My Loving」のような三連符のリズムギターなど、細かいニュアンスやユーモアが随所に散りばめられており、まるで煌めく青春群像劇を観ているようです。それはまるで、ジョージ・ルーカスの「アメリカン・グラフィティ」のような、あっという間に過ぎ去る儚くも眩く輝く光のようでもあります。また、「Strawberry Fields Forever」や「I am the Walrus」、「Come Together」など後期の作品では、モダンな抽象画のような世界の中で、混沌や愛といったテーマや不思議な魔力を感じられるパートがあります。これは、アルフレッド・ヒッチコック(「サイコ」など)、スタンリー・キューブリック(「時計仕掛けのオレンジ」、「2001年宇宙の旅」、「シャイニング」など)、フランシス・フォード・コッポラ(「地獄の黙示録」、「ゴッド・ファーザー」シリーズなど)の作風と共通する部分があるように感じます。製作自体が実験的で難解なコンセプトを伴うものであっても、魅力的な作品に仕上げるアイディアや斬新な切り口で完成した楽曲を聴くことができるのは非常にありがたいことです。彼の楽曲に対し、少々荒削りで不安定な印象を持つことがあるかもしれませんが、そこにはジョン・レノンの泥臭く人間味あふれるロックンロールのカッコ良さや、ビートルズのルーツでもあるブラックミュージックの土着した文化が生み出す力強さがあるように思います。
#ポール・マッカートニー
_ミスター完璧主義。

ポール・マッカートニーの楽曲は、文句のつけようがない完成度でリスナーを魅了し続けています。「Yesterday」や「Eleanor Rigby」、「Let it Be」など、“稀代の名曲”と呼ぶに相応しい楽曲を全活動期間を通じてズラリと並べることが出来ます。完璧に作品のキャラクターを演じるトム・ハンクス(「フォレスト・ガンプ」、「キャスト・アウェイ」、「クラウドアトラス」など)やロビン・ウィリアムズ(「レナードの朝」、「グッド・ウィル・ハンティング」など)のように、楽曲を同じように表情豊かでどこかノスタルジックな感動のある作品に仕上げることができるのは、ポールの才能の現れかもしれません。また、彼の「完璧主義」と言われる作風や作品の完成度はスティーブン・スピルバーグ(「未知との遭遇」、「E.T.」、「シンドラーのリスト」など)やマーティン・スコセッシ(「タクシードライバー」、「グッドフェローズ」など)のそれと共鳴する部分があるように思います。
#ジョージ・ハリスン
_気の利く繊細な末っ子。

ジョージ・ハリスンの楽曲、「Within You Without You」や「Taxman」、「I Me Mine」などは、エキサイティングでスリリング、どこか皮肉めいていてスタイリッシュというイメージがあります。このような点で、ガイ・リッチー(「スナッチ」、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」など)やクエンティン・タランティーノ(「パルプ・フィクション」、「レザボア・ドッグス」など)のような作風を思わせる部分もあります。異なるスタイルではありますが、「Something」や「While My Guitar Gently Weeps」、「Here Comes the Sun」などの楽曲では非常に美しく悠然と洗練されたプレイを堪能することが出来ます。映像作品に例えるならばウェス・アンダーソン監督の作品(「ザ・グランド・ブダペスト・ホテル」、「ムーンライズ・キングダム」、「ファンタスティック Mr.FOX」など)などが挙げられるかもしれません。
#リンゴ・スター
_その魔法の指輪で。

リンゴ・スターは、自身の楽曲がディズニーやピクサー(「くまのプーさん」、「トイ・ストーリー」など)のように多くの人々に愛される親しみやすい作風(「Octopus’s Garden」など)である一方、他のメンバーの強烈な個性を発揮する楽曲に対して、時に献身的に、またある時はそれをさらに発展させるような、他の人では表現できない素晴らしいプレイを聴かせてくれます(「With a Little Help from My Friends」など)。
これは、偉大なプロデューサーであるジョージ・マーティンにも言えることかもしれません。
エピローグ
今回はビートルズの音楽を、映画という形式を通して新たな解釈を見出すことに挑戦しました。ビートルズに限らず “音楽” は単なる音の波ではなく、映像、物語、感情を内包する芸術作品ま。この特集を通じて、音楽と映画、この二つの世界が交差するところに存在する永遠の魔法をみなさんと共有出来たら幸せです。